【卒業の春に】

熟達論 為末大(著)


大学生の子どもが帰省したとき、机の上にこの本が置いてありました。表紙の帯にはこう書かれていました。


「人はいつまでも学び、成長できる。..人間の成長の階段を昇るのに年齢は関係ない。人生をより良く生きるために、自身の探求と成長を極める。」


え?年齢は関係ない?人生をより良く生きるために..これ、私のモットーじゃない?


パラっと開いてみると、「脱力。必要なところに、必要なだけ力を入れる。」..これ、私が毎日毎日格闘していることじゃないですか?


思わず夢中になって2回読み、3回目はメモを取りました。著者が音楽家でなくアスリートだから、私にとって新鮮で、視野が広がったような気がします。


子どもも卒業とともに一区切り。この時期にこの本をきっかけにお互いの経験について話せてとても楽しかったです。自分の考えもここで一度まとめておこうと思いました。


本番力

こればっかりは私には無理なのかもしれないと、ハープを習いたてのころ思っていました。家であんなに練習したのに、本番は魔物のようにうまくいかない。


「本番練習」するしかないのかな。なるべく緊張する練習。家族の前で弾く。親戚の集まりで弾く。友だちの前で弾く。子どもの友だちの前で弾く。なぜかこういうときはいつも失敗だらけ。


自分が習っていたハープ教室の発表会や交流会にはほとんど毎回参加していました。こんな良い機会を作って下さった先生には、本当に感謝しています。


そこでは、失敗と成功を身を持って経験できました。私はもともと楽天的..というより、楽天的でいようとしています。


失敗したときはちょっとだけ反省して、次に絶対持ち込まない。参加して挑戦できたら、それで成功。その「成功」だけを宝物のように持ち続け、次の本番で思い出す。


「あのとき成功したのだから、大丈夫!」


参加しただけで成功なんて、自己評価甘いなあと思うけど、私にはこんなささいな成功を積み重ねていくことしかできません。夢のようなステップアップできたらいいんですけどね。


基本

ハープにはいろいろな弾き方があり、はじめは少し迷いました。いろいろ探求していると、少しずつ見えてきました。


芯の部分はみんな同じで、違うのはその使い方や表し方なのではないか。


究極的には、人差し指一本だけの基本がすべてで、これが正しくできないと応用がきかないときがきてしまう。指の角度、音を出すための体の使い方、力を入れるタイミング、正しい脱力。


早く難しい曲を弾けるようになりたいとか、曲数を増やしたいとか、スピードをあげなければならないとか、考えてしまうとつい忘れてしまいます。


生徒さんの中に、驚くほど美しい音を出す方がいます。思わず「どうやって覚えたの?」と聞くと「先生(私)に教わったとおりにしました。」と。


あ、私が教えたのか。基本ってすごいんだな、と逆に生徒さんから教わるおかしな先生です。


この本には、「まず土台である型を身に付け、無意識に中心を取れると、やがて輪郭が崩れ、自分らしさが自然な形で出てくる。」とありました。


がんばろう!


表現力

永遠の課題だけれど、これを考えている時間が一番楽しい。その曲のハープだけでなく、他の楽器や歌もよく聴きます。歴史や背景を知るのも好きです。さぁどんなふうに弾こうかな。


悲しそうに弾こうかな。楽しそうに弾こうかな。小鳥みたいに弾きたいな。映画のワンシーンみたいにしたい。この一音で必ず感動的なクライマックスにする。悲しいけど明るくふるまう、そんなニュアンスはどうしたら出せるんだろう。


技術はまだまだだけれど、自分だけの表現、できたらいいな。ロボットやAIにはできない演奏がしたい。難しい楽譜でなくても、人差し指一本でも、自由自在に、心出せたらいいな。


我を忘れる体験

子どもがスポーツの「ゾーン」について話していました。私にも似たような経験があります。私にとってはじめての大きな舞台。何か月も前から、緊張していました。


当日、演奏をはじめたときの感想は「音質、悪ー」でも「楽観的に考えなきゃ」「これで十分だよ」とプラスマイナスの雑念が次々に浮かびました。(為末さんはこの雑念をなくさなくてはいけないと書いておられました。)


しばらくすると、すーっと体が軽くなり、緊張が消えました。お客様の存在も感じなくなり、真っ白な光の世界で、自分のハープの音だけが聞こえる。気持ちいい。ずっとこの世界に浸っていたい。


..と思ったのだけれど、まだまだ未熟。ミスを恐れて、現実に自分を戻してしまいました。


いつか、あのままゴールまで走り続けたい。


為末さんの言葉にこんなものがあります。


「すべてのはじまりは『遊』..面白いのに、何の意味も目的も理由もない..思い切り動くことで探求のプロセスが豊かになり..最後には表現の大きさを決める。」


そうそう。これこれ。みんな、思い切り遊ぼう!何の意味もなく、心の底から笑い合おう。失敗しても何も怖くない。人と比べず、自分のペースで、自由に個性を出せる。


そんな趣味を持てたら、最高じゃない?













ハープ教室 ゆめのおと